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Text:小野 真

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齊藤 三希子
エスエムオー株式会社 代表取締役  株式会社電通に入社後、電通総研への出向を経て、2005年に株式会社齊藤三希子事務所(後にエスエムオー株式会社に社名変更)を設立。「本物を未来に伝えていく。」をパーパスとして掲げ、ものの本質的な価値を見据えたパーパス・ブランディングを日本でいち早く取り入れる。フューチャー・インサイトとクリエイティブを融合させた、強く美しいブランドをつくるためのコンサルティングを行なっている。そのために、世界中を旅し、あらゆる人と触れ、見たことのないものを追い求める。慶應義塾大学経済学部卒業。2021年7月、著書『PURPOSE BRANDING〜「何をやるか?」ではなく「なぜやるか?」から考える』を出版。株式会社バルカー社外取締役。
上田 桂司
株式会社ASNOVA 代表取締役社長。2013年12月日本レンテクト株式会社を設立。2019年12月に商号を株式会社ASNOVAに変更。くさび式足場のレンタル需要に応えるため、徹底した機材の管理基盤を作り上げた。会社設立時から目指していた上場は2022年4月に達成し、今後も事業の拡大を狙う。
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パーパス策定・上場から、パーパスを軸としたベトナム展開まで 変化とともに成長するASNOVAのパーパス・ブランディングとは

名古屋に本社を置き、足場レンタル事業を日本中に、そしてベトナムにも展開している株式会社ASNOVA。当社代表の上田が2021年にエスエムオー株式会社(以下、「SMO」)代表取締役 齊藤 三希子氏の著書「PURPOSE BRANDING」を読んだことをきっかけに、当社はSMOの支援をいただきながらパーパスを策定し、パーパス・ブランディングを実行しています。
SMOとともに策定したパーパスとその経緯を振り返って、またパーパスを異なる言語・文化へローカライズさせ海外展開を推進する取り組みについて、SMO 代表取締役 齊藤 三希子氏から当社代表の上田にインタビューしていただきました。

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齊藤 三希子
エスエムオー株式会社 代表取締役  株式会社電通に入社後、電通総研への出向を経て、2005年に株式会社齊藤三希子事務所(後にエスエムオー株式会社に社名変更)を設立。「本物を未来に伝えていく。」をパーパスとして掲げ、ものの本質的な価値を見据えたパーパス・ブランディングを日本でいち早く取り入れる。フューチャー・インサイトとクリエイティブを融合させた、強く美しいブランドをつくるためのコンサルティングを行なっている。そのために、世界中を旅し、あらゆる人と触れ、見たことのないものを追い求める。慶應義塾大学経済学部卒業。2021年7月、著書『PURPOSE BRANDING〜「何をやるか?」ではなく「なぜやるか?」から考える』を出版。株式会社バルカー社外取締役。
上田 桂司
株式会社ASNOVA 代表取締役社長。2013年12月日本レンテクト株式会社を設立。2019年12月に商号を株式会社ASNOVAに変更。くさび式足場のレンタル需要に応えるため、徹底した機材の管理基盤を作り上げた。会社設立時から目指していた上場は2022年4月に達成し、今後も事業の拡大を狙う。
齊藤さん:本日は名古屋と東京ということでオンラインでのインタビューになりましたが、上田社長のそのZoom背景にあるピラミッドについて、まずご説明をいただいてもいいでしょうか?
 
上田:2500年前に行われていたピラミッドの建設ですが、当時から非常に高度な技術で、足場が組まれていたんです。日本でも、歴史的な建造物を建てる際に必ず足場を使ってきたように、昔から足場が社会を支えていて、非常に大切な文化だと感じています。ただ、足場って撤去されちゃうので、印象に残りづらいのですね。この儚い存在を少しでも表に出そうと、Zoomの背景をこのピラミッドにしています。
齊藤さん:足場がなければ社会が成り立たないわけですね。足場って、構築物としてアートっぽい感じがすごい美しいなと、工事現場を見るたびに思っていたのですが、常にそこにない儚さも理由だったのかもしれません。
さて、私の著書を読んでいただいたのをきっかけにご相談をいただき、そのあと凄いスピード感でASNOVAのパーパスプロジェクトが進みましたが、なぜパーパスを策定しようと思ったのか、その経緯を教えていただきたいです。
 
上田:それまで経営理念やビジョンを策定して浸透を試みても中々上手くいかずでした。色々なことにチャレンジしていく中で、中途採用が主なので色んな価値観を抱えた人が多くて、それぞれが持つ判断基準の中で進めると、組織としてのまとまりもないまま、方向性がバラバラになっていって。
そんな中で齊藤さんの「PURPOSE BRANDING」を読ませていただいて、やはり同じ価値観・判断基準を持つことが重要だなと感じました。それには一日も早くパーパスを策定する必要があると思って、すぐに行動に移したのが経緯になります。

上場前でのパーパス策定

齊藤さん:ありがとうございます。パーパス策定までを振り返られて、色んな社員を巻き込んでの策定でしたが、大変だった部分、良かった部分などはありますか?
 
上田:当時は上場直前で、スケジュール調整が大変でしたが、それ以外は非常に有意義で楽しい策定過程を過ごさせてもらったと思っています。皆で色々な話を通して、お互いの思いも聞きながら、皆がワークショップを優先順位を高めて積極的に参加してくれて、改めて会社の存在意義を感じることができましたね。
 
齊藤さん:その優先順位を高めなくてはという意識は、上田さんの思いが強かったゆえのことだと思うのですが、それを醸成する上での秘訣はありましたか。
 
上田:私はワークショップの中ではあまり表に出てやるというよりも、皆の発言を引き出すようにって感じで、それほど発言してないんですよ。SMOさんが上手くリードしてくださったので、そこに身を委ねていたら、皆がどんどん発言して時間が足りなくなるくらいでした。
 
齊藤さん:それは良かったです。上場前で会社がより前に進んでいこうとしていた中でのパーパス策定、タイミング的にはどうでしたか?
 
上田:かなり忙しい時期ではあったのですが、そういう時にこそやってよかったと思いますね。忙しいって字は心を亡くすって書くように、忙しい状態って心に良くないなと思うんです。だからこそパーパス策定を通して、存在理由を明らかにすることがより必要だったんだと思います。  
 
齊藤さん:そうして出来上がったパーパス“「カセツ」の力で、社会に明日の場を創りだす。”ですが、上田さんから見てどのようなご感想ですか?
上田:すごく今の会社を表していると思います。私の心の中には、常にこのパーパスに似たものがあったんですよ。非常に気に入っていますし、社内でも、最後このパーパスにしようってなった時、ひとりも異論がなかったんです。 

齊藤さん:それは嬉しいですね。社員の皆さんの腹落ち度も高かった感じなんですね。
 
上田:そうですね、浸透ってまずはこういうことなんだなと。パーパスができる前の以前の理念の時は、それを浸透させようと必死になってたんですが、それが間違いだったのかなと思って。皆が「自分たちの存在理由ってこうだよね」と、能動的に心の奥底から湧き出るように思えることこそが浸透の始まりなのかと、今回のワークショップで見えたような気がします。
 
齊藤さん:上から「これを信じろ!」と神棚に飾られた理念を見せられても、社員には響かないわけですね。
齊藤さん:こちらは、ASNOVAというブランドがどのようにあるべきかが書かれた社員向けのブックですが、こちらのブランドブックも一緒に作らせていただきました。どのように活用されていますか?
 
上田:ウェブサイトの改修やサイト構築する時や、マーケティングで印刷物を作成するときなど、世界観を伝える際に非常に役立っています。

齊藤さん:パーパスの背後にあるストーリーから、ロゴデザインの説明、ASNOVAを人に例えるとどんな人物なのかというパーソナリティまで、ASNOVAを理解するのに良い一冊が出来上がって、お手伝いした私たちとしても嬉しいです。
齊藤さん:さて、パーパスを策定して上場をされたわけですが、上場前と後、それぞれでパーパスの力を感じられた部分はありますか。
 
上田:上場後は特に、IRで投資家説明会の場が多いので、冒頭では必ずパーパスについて話しています。パーパスを全面的に出して「この会社はまずこういった会社なんだ」ということを、投資家に知っていただく機会が増えましたし、このパーパスがあるかないかで、皆さんの共感を得る部分が大きく変わったと思いますね。本当に策定してよかったと思います。
齊藤さん:投資家の方を含め、社内・外の反応はどうでしたか?
 
上田:やはり何かが伝わるんでしょうね。業績よりも、会社の思いに共感してもらって、株を保有して長く応援していたいという声を聞くので、これはまさにパーパスを全面に出したことが理由だと思います。
 
齊藤さん:ASNOVAファンを生み出すきっかけになっているのですね!

ベトナムでもパーパスを軸に展開

齊藤さん:最近はベトナム進出も進めてらっしゃると思いますが、現状いかがでしょうか?
 
上田:昨年10月にベトナムで法人を設立しまして、4月に本格的なレンタル事業を開始しました。足場を保有しレンタルする事業は、需要があっても足場の管理ノウハウがなければ危険なので、現地スタッフの教育含め、3年ほどは地固めだと思っています。その上で足場の保有を一気に増やして需要に応えていけるようにするために、少しづつ将来に向けて準備している最中です。
齊藤さん:成長のチャンスを見逃さずに、なおかつASNOVAクオリティを担保するためにきちんと教育されているのは上田社長らしいですね。ベトナム展開において、パーパスのローカライズについてもお手伝いさせていただきました。それについてご説明いただけましたらと思います。
 
上田:パーパスブックを翻訳し、ベトナム語版のものを作って、現地のスタッフに共有しています。現地の代表がパーパスに非常に共鳴していて、国が変わるといえど同じ志を持ってASNOVAグループをやっていくべきだという認識のもとで、行動してくれています。ベトナムでの展示会でもパーパスを全面に出して、ブランディングを押し出しています。
齊藤さん:ベトナムへローカライズするにあたり、苦労されたことはありますか?
 
上田:そこはSMOさんが上手くサポートして下さったので、苦労したことはあまりなかったですね。

今後のパーパス浸透にあたって

齊藤さん:ありがとうございます。今後、国内外でパーパスをより浸透させていくにあたり、施策など考えてらっしゃれば教えてください。
 
上田:新規事業を考えるときもパーパスを前提にして話し合いをし、その他何かを決める際にもパーパスを評価基準にしています。
なかでも一番力を入れているのが合宿です。ASNOVAが抱える課題やお客様のニーズにどう応えるかを考える合宿を10人ほどで開催しています。以前は外部の有識者に相談していたのですが、自分たちの問題は自分たちで考えると、結局それが自分ごと化することに繋がり、意識が芽生えるので。役職・男女・上司部下関係なく、10人ほどで行なっています。
 
齊藤さん:素晴らしいですね、まさに社員一人一人が想いを語る機会を作ってらっしゃる。上田さんも行かれるのですか?
 
上田:私は行かないようにしていますね。後からフィードバックをもらい、それを皆で考える機会を設けています。新規事業をやる時も必ず壁に当たるので、壁を乗り越えるためにはどうすべきか、ワークショップを開いて考えたり、課題を全体にシェアするためにディスカッションするのですが、結構いい案が出るのですよ。
 
齊藤さん:ちょっと離れたところから見て、違った意見が見えてくるのですね。
上田:面白いのが、毎回何かしらの結論に至るんです。
そうすると「自分たちが」という意識が芽生えます。私が今まで「これやって」って指示し受け身でやってたものから、自分たちが作り出すという、これこそ”カセツの力”ですね。失敗してもいいので、仮に検証して、仮にやってみる。これが大事だと思っています。いいパーパスを作っても自分のものにしないと、そして自分達で新しいものをつくり出さないと、意味がないと思っています。
 
齊藤さん:社内のパーパス浸透度も実感されていますか?

上田:もう感覚でしかないんですけども、皆の頭の片隅に残るようになって来ていると思います。一般的な経営理念より、今回策定したパーパスは、すぐ言葉にできるのが、非常に大きいと思います。
 
齊藤さん:そこがパーパスの大きな醍醐味ですね。皆にわかりやすく、使ってもらえる言葉に落とし込むというところは、私たちも策定の度に必須条件としています。

パーパスのような判断基準がないと変化についていけなくなる

齊藤さん:経営者として、これからパーパスを策定しようとする企業さんに対して、アドバイスをいただけますでしょうか?
 
上田:当社でも2−3年のうちにビジネスモデルが変わったり、お客さんの要望も変わってきたりで、時代の変化がすごく激しいですね。社員から色々と出てくる意見がこちらに届くまで数ヶ月かかると、そのようなスピード感についていけない。現場のことは現場が一番知っているので、その場その場でみんな最適な判断をしていく必要がある中で、パーパスのような判断基準になるものがないと世の中についていけないのではと思います。会社の繁栄どころか、維持も厳しくなるのではないでしょうか。
昔のようなトップダウンのやり方ではついていけないと思いますし、社員全員が自ら考え、考えるための判断基準がある組織体制にしていかないと取り残されてしまう気がします。
 
齊藤さん:まさにパーパスを軸にした経営を実践されている上田さんならではのご意見だと思います。ありがとうございます。最後に上田さんのパーパスをお聞きしても良いでしょうか?
 
上田:個人のパーパスは「一心万変に応ず」でしょうか。一つ拠り所にするものがないと、個人的にも激しい変化についていけないですよね。
齊藤さん:これからの経営者は、パーパスと未来を読む力が必須であると私も日頃お伝えしています。上田さんが持っていらっしゃる、その素晴らしい先見の明はどうしたら養えるのでしょうか?
 
上田:いやいや、さまざまなことをして一発当てよう、儲けようと色々手を出してきて、その中で足場レンタルだけが、とても需要があったような感じです。正直あまり踏み込みたくなかった業界ですが、社会性という視点で、世の中のためになるものだったので、これをやると決めました。今となっては、自分自身が好きな仕事である必要はないのかもしれないと感じます。
 
齊藤さん:トライアンドエラーを繰り返してそこにたどり着いたのですね。入り口は違ったけど、やっていく内に天職になっていったと。
 
上田:そうですね、最初”ありがとう”から始まったものがこう10何年と続いていくことになりましたから、そうなのでしょうね。逆に他にやろうとしたものは儲けようとばかりしていて、疲弊するだけでした。感謝に対するモチベーションの違いもあると思います。
 
齊藤さん:やはり長期的に続けられるものは、世の中や人々のためになるものであり、それがパーパスと繋がっていくわけですね。結果として利益も長期的に生み出していくと。私たちもそのようなパーパス・ブランディングを体現されているASNOVAさんとご一緒できて大変嬉しく思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 
上田:ありがとうございました。

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