SOCIETY

Text:吉澤 瑠美
Photo:斉藤 菜々子

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PROIFILE

元木 大輔
DDAA/DDAA LAB代表。1981年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業後、スキーマ建築計画勤務。2010年建築的な思考を軸に領域横断的に活動するデザインスタジオDaisuke Motogi Architecture (現DDAA)設立。2019年スタートアップの支援を行うミスルトーと共に、実験的なデザインとリサーチのための組織DDAA LABを設立。2020年第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展出展。
榊原 充大
建築家/リサーチャー。1984年愛知県生まれ。2007年神戸大学文学部人文学科芸術学専修卒業。建築や都市に関する調査・執筆、提案、プロジェクトディレクション/マネジメントなどを業務としプロジェクトの実現までをサポートする。2008年から建築リサーチ組織「RAD」を共同運営。2019年に、公共的な施設の企画運営のサポートをおこなう「株式会社都市機能計画室」を設立。
吉澤 瑠美
1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。
SOCIETY

元木大輔に聞く、変化と更新を組み込む建築

素材となり得るものの本質を捉え、利用者の行動やニーズに沿ったプロダクトを提案し続ける建築家・元木大輔氏(DDAA/DDAA LAB)。世界トップクラスの写真展を単管パイプで飾るアイデアは話題を呼びました。彼の制作の根底にある考え方とは?10年来の交流を持つ榊原充大氏(RAD)とともにお話を伺います。

Text:吉澤 瑠美
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元木 大輔
DDAA/DDAA LAB代表。1981年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業後、スキーマ建築計画勤務。2010年建築的な思考を軸に領域横断的に活動するデザインスタジオDaisuke Motogi Architecture (現DDAA)設立。2019年スタートアップの支援を行うミスルトーと共に、実験的なデザインとリサーチのための組織DDAA LABを設立。2020年第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展出展。
榊原 充大
建築家/リサーチャー。1984年愛知県生まれ。2007年神戸大学文学部人文学科芸術学専修卒業。建築や都市に関する調査・執筆、提案、プロジェクトディレクション/マネジメントなどを業務としプロジェクトの実現までをサポートする。2008年から建築リサーチ組織「RAD」を共同運営。2019年に、公共的な施設の企画運営のサポートをおこなう「株式会社都市機能計画室」を設立。
吉澤 瑠美
1984年生まれ、千葉県出身。千葉大学文学部卒業。約10年間Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。職人、工場、アーティストなどものづくりに携わる人へのインタビューを多く手掛けている。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。

「変化することが前提」使いながら価値が高まっていくデザイン

一般的に内装や家具、建築物というと、安全や耐久性に重きを置いた、隙のない、手堅い設計が多いように思うのですが、元木さんが作られるものには少し違った印象を受けます。「完成していない」というか。

元木大輔氏(DDAA/DDAA LAB)
元木:僕らが最近興味を持っているのは、設計者やデザイナーが手を加えて「完成しました、はい使ってね」という瞬間がピークではなくて、使われていること自体に価値が生まれるものにしていきたい、ということです。買った新品の時がピークで、そこから価値が下がっていくというのは寂しいじゃないですか。
榊原充大氏(RAD)
榊原:住宅やオフィスビルだけでなく、展示の会場構成やショップの内装のように、期間が限定されているプロジェクトを多く手がけていることも元木くんの特徴ですよね。
 
元木:そういった期間の限られたプロジェクトの場合は、変化を前提として、クイックに作っていくことを重視しますね。たとえば僕らの事務所は、年に一回壁を塗り直すんです。建物の外壁のモックアップを事務所の中に設置したり、穴を開けたり、いろいろ加工することが多いから。変化することが前提の事務所になっています。
「塗り直したばかり」という壁には早くもアイデアスケッチがたくさん
元木:このソファはナイキのイベントで作ったものです。一般的なソファは骨組みも生地もしっかりしているけれど、納期が2か月ぐらいは掛かっちゃうんですよね。そうじゃなくて、DIYで作れて簡単にできる、「ソファらしきもの」を作りました。
 
榊原:素材は何ですか?
 
元木:チップウレタンというソファの中に入っているウレタンフォームを崩してプレスした、リサイクル品です。普通はこの何分の1かの厚みで座面にするんですが、大きな塊で切り出して、ただ置いている状態ですね。初めは空港などで荷物を保護するラップでグルッと巻いて固定していたんですが、さすがに耐久年数も短かったので、梱包用のプチプチと、トラックの荷台を締め上げるラッシングベルトでギュッと締め上げるようにしました。だけどプチプチは少し蹴っただけで穴が空いてしまう。今はダイニーマというテントなどにも使われる軽量で引っ張りに強い素材に変えています。

使いながら変えられるんですね。どんどんバージョンアップしていく。

元木:そうですね。透明な材料でいろいろ実験しているんですが、また変わるかもしれません。
ウレタンをラッシングベルトで巻いただけの「ソファらしきもの」。らしきもの、とはいうが立派なソファ ©DDAA

モノに溢れた時代の、 ゼロベースで作らないクリエイティブ

本来使われないような素材でものを作るのはなぜですか?空港で使うものや、荷台で縛るベルトを使ってソファーを作ったり、あえて違うものを使っているように見えます。

元木:もう世の中に良いものは溢れているので、ゼロベースで提案するというのは正直必要ないんじゃないかなと思うんです。カロリーが高すぎる。むしろ新しく何かを作ることに罪悪感さえ覚えているので、既にあるものをきちんと素材として見つめ直して、新たな使い方や新たな価値を発見するほうが現状が良くなるのでは、と考えています。たとえば向かいの建物の白い壁を「お向かいの外壁」として見るのではなく、プロジェクションが可能なスクリーンと考えると、途端にここがシアターになるじゃないですか。
榊原:元木くんは2011年にも、公園にあるサッカーゴールを、災害時に避難民を安全に収容するための骨組みとして見るとか、一貫して「見立ての変換」を軸にした提案をしていますよね。ゴールと見るか、骨組みと見るか。

役割は最初から決まっているものではなくて、後から付けるということ?

元木:「これ用のこれ」というものはなくて、カスタム可能なものとしてあらゆるものを眺めているという感じです。特に街とかは出来上がっちゃってるんですけど、完成度はかなり低いので、より良くする伸びしろが結構あるなと思うんですよね。

「街の完成度が低い」とはどういうことでしょうか?

元木:たとえば、道路の用途は「歩くこと」に限られていて、散歩する人か移動する人ぐらいしかいませんよね。東京の街にはほとんどベンチがないので、立ち止まることができないんです。テーブルやベンチがあるだけで、ちょっと物を置くことができたり、何らかのアクティビティを生み出したりする可能性があると思っています。

パブリックスペースを「ボムる」

事務所の前のガードレールに設置されたベンチとクッション。近隣の人々もよく座っているという
榊原:それで道路にベンチを設置されているんですね。事務所の前の歩道にある、あれもそうですか?
 
元木:これも僕らで設置しました。事務所がガラス張りなので、なんとなくあの辺まで勝手にはみ出して使わせてもらっています(笑)。とはいえ事務所が坂の上にあるので、ちょっと腰の悪いおばあちゃんが使っていたり、ご近所の方にも随分活用されています。
 
榊原:街中で気軽に休める場所ってあまりないですよね。
 
元木:グラフィティライターが落書きすることを「ボム」と言うんですが、僕らはこのプロジェクトをベンチ・ボムと呼んでいます。引っ掛けるだけとか、ベルトで締め上げるだけにして、パッと取れるような状態でいろいろなものをデザインしています。

パブリックスペースに何かを設置することを考える場合、パッと取り外せることも大切なんですね。簡単に取り付けられるということでもあるからでしょうか。

元木:工具で設置するのは普通かなと思っちゃうんですよね。「なんかダサいな」って。何なら溶接とかしたいんですけどね本当は(笑)。
 
榊原:これはどこからお金が出ているんですか?
 
元木:いや、自腹。基本的には、興味に基づいてやっていただけなんですけど、今はDDAA LABという、クライアントワークを一切せずに研究開発をするチームのプロジェクトとして行っています。
事務所の向かいにあるブルーボトルコーヒー前に、ミニテーブルを設置
ピーター・マリゴールド作の、さつまいもにフォークを刺した照明
一般家庭用のスポンジを組み合わせて作った多目的ラック

ノイズを受け入れられる余白が 「完成しないデザイン」には必要

榊原:こういう、長い目で見たらテンポラリな状況やそのための設備に元木くんの関心があるのか、それとも都市が成立するプロセスに関心があるのか、という点はどう?テンポラリなほうだったら「仮設性」みたいなものと響き合うのかなと思ったんですが。
 
元木:仮設の良さって、使い方が定まらないというか、「こう使ってください」というアフォーダンスが変更可能なところだと思います。とあるヨーロッパの都市の駅前広場には地面に穴が空いているので、そこにスチールパイプのテントで朝市を開いて、朝市が終わった昼ぐらいには撤去しちゃうんです。仮設性がないと、その場の使い方が店舗に限定されちゃうじゃないですか。広場としての機能がそこで失われてしまう。 「ここは市場ですよ、とても使いやすい市場を考えたので使ってください」だと、将来的にインターフェースが変わったり、考え方や流通の仕組みが変わったりすると、いずれフィットしなくなります。生活に合わせて少しずつ更新できることが、「完成しないデザイン」として必要なんじゃないかと思うんですよね。そのためには、ある程度のノイズを受け入れられるというか、キレイに整えすぎないとか、何か予測不能なものが入ってきても質が崩れないものの方がいいかな、と思います。

機能を限定しない拡張可能なシステム、 それが足場

このテーブルの脚は、一般的に足場として使われているものですよね。これは、単管パイプを組んで、塗装している……?

元木:メッキですね、18金。正確には磨いたり、既存のメッキを落としたり、ちょっと重いので厚さの薄いパイプを使っていたりと、いろいろ工夫はしているんですけど。
 
榊原:そうそう、結構ディティールにこだわって作っているなという印象を受けました。さっき元木くんが言ってくれた仮設性の話とはまた別で、「仮設の象徴」である足場の素材は、テンポラリであるがゆえにチープさも出るじゃないですか。チープな素材としての足場を、こういうラグジュアリーな形にしているのがすごく面白い価値転換だと思うんだけど、なぜここで足場を選んだんですか?
 
元木:これは、「アートフォト東京」というアートイベントの会場のために最初は作ったんですよ。廃ビルで3日間だけ行われるアートイベントということで、仮設的なものがふさわしいだろうと思って単管パイプを使ったんですが、単管だけだとあまりにラフで、廃ビルのコンテクストとまったく同じなので意味がない。それで、工事現場で使う材料をできるだけ違う仕上げで使おうと考えました。
元木:会場をあまり丁寧にしつらえ過ぎると、施工の期間も短いし、アラが目立って楽しめなくなるんじゃないかという懸念もありました。それで、ノイズを受け入れて、ちょっとアラがある状態を楽しめるような仕掛けとしてこのデザインにしました。
 
榊原:アートフォト東京のプロジェクトからこれが生まれたんですね。コンテクストと価値観の関係性から。
 
元木:単管に金メッキをしたらカッコよかろう、というアイデアは以前から持っていたんですが、何らかのコンテクストに乗せて作ったほうがいいなと思っていたので。

それがハマったということですね。ちょうど良いバランス、という感じがします。

元木:足場の良いところは、完結したプロダクトではない、拡張可能なシステムというところです。本棚にもなるし、パーテーションにもなるし、もちろん足場としても使えるし、工夫次第でいくらでも機能を限定されないシステムなので、このプロジェクトとの相性はとても良かったと思っています。
©Takashi Fujikawa
竣工しない、作りかけのまま運営するオフィス

今考えていらっしゃるプロジェクトや、今後やってみたいことはありますか?

元木:2018年から関わっている池尻大橋のスペースは、「竣工しない」というコンセプトで作っています。スタートアップへの支援や投資を行っているミスルトーというコミュニティーのための場所なんですが、彼らはテクノロジーや新しいビジネスモデルを現場で見たり知ったりすることがやりたいことなので、典型的なデスクワークではなく、現場や本場を体験するという考え方のもと、一般的なオフィスとしては作っていません。完成していない状態でローンチして、必要に応じてプロジェクトを立ち上げ、新しいものを考えたり作ったりしています。
インキュベーションオフィス「MISTLETOE OF TOKYO」©Kenta Hasegawa
榊原:それはDDAA LABとして請け負っているんですか?
 
元木:そう。DDAA LABがやっていることは3つあって、1つは「場所のアップデート」。このオフィスは完成しないので、ずっと関わり続けて、何かあった時にアップデートします。もう一つは、スタートアップ企業の多くはプラスアルファのプレゼンテーションやデザインに割くリソースがなかなかないので、見せ方やプロダクトのアイデアをデザインして、この場所に実装しています。彼らのプレゼンにも使えるしコミュニティー同士のセレンディピティーにも繋がる、というのが2つめ。3つ目は、先ほど言ったベンチや町の計画のように、「こうすれば生活がもっと豊かになるんじゃないか」みたいな提案を勝手にやっています。

拡張の面白さは、 時代が求める「組み合わせの妙」

元木:アルヴァ・アアルトの「スツール60」という、シンプルなデザインでスタッキングできて、発表から80年以上経った今でも人気のスツールがあります。あるとき、100人規模のイベントをするのに椅子が必要だから、スツールが150くらい必要という話になったんですが、買う前に、どんな椅子が会場にあるといいか、アイデアワークショップを開いてみました。100人並ぶから前のほうが低くて後ろのほうが高くなるといいとか、メモを取るのにちょっとしたテーブルが欲しいとか、クロークを作ると大変だから、小さな荷物は椅子に掛けたいとか。話を聞いてみると、欲しいのはどんな状況でも使えるスツールじゃなくて、個々の状況に対応できる自分の居場所だったんですね。
元木:もうスツールとして新しいものを作る必要はほとんどないんです。なぜなら名作がいくつもあるし、今は量販店に行けばスツール60にそっくりのスツールが10分の1以下の価格で買える。本物にも安いスツールにも付けられるスツール拡張のアイデアをデザインして、図面の3Dデータを公開して、作ろうと思えば誰でも出力できるデータにする、というプロジェクトも動いています。今は300スケッチあるんですが、その中から100のアイデアを実際に製作しているので、展示をする予定です。
 
榊原:拡張性は、ポジティブな意味で仮設性ともリンクしますね。単管の金メッキ塗装もしかり、このアイデアもプラスアルファが軸になっているけれど、今の制作活動は、既に流通しているものを介入対象にして新しい価値を作るものが中心になっているんですか?
 
元木:すべてがこのアプローチというわけではありません。どういうアプローチがふさわしいか、プロジェクトごとに選択しています。ただ、コーディネートと一緒で、同じシャツでもダサく着こなす方法もあれば、おしゃれに着こなす方法もあるじゃないですか。ベンチのように、付加する要素が小さくても、周りの状況が良くなるケースはあると思っています。これはグラフィックデザインだとかなり基本的な考え方で、赤の隣に何色を置くか、組み合わせ次第で元々の意味や印象がガラッと変わる。そういうアプローチを大切にしたいなという思いはあります。こういうアプローチは時代的にも割合が増えてきている気もしますね。
『POP UP SOCIETY』とは 『POP UP SOCIETY』は、一般の方に業界への興味を持ってもらい、中長期的に建設仮設業界の若手人材不足に貢献することを目指し、ASNOVAが2020年3月から2022年3月まで運営してきた不定期発行のマガジンです。 仮設(カセツ)という切り口で、国内外のユニークで実験的な取組みを、人物・企業へのインタビュー、体験レポートなどを通じて紹介します。

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