初めて触れた「足場」。楽しみながら作品づくりを進める
Q,足場を使ったのは初めてでしたか?
三輪:初めてでした。最初は別の素材を使う予定だったのですが、教授や研究室助手の笹田侑志さんたちとの話し合いの中で、途中で「足場を使ってみるのはどうだろう」ということになり、導入してみることになりました。
恥ずかしながらそれまで「くさび式の足場」というものを知らず、「このゴツゴツした部分はなんだろう?」「どのように使っていこう?」と最初は不安もありました。
でも触れていくうちに足場そのものに対する理解が深まっていき、思うように活用していくことができるようになりました。
佐野:足場と聞くとどうしても「工事現場で使うもの」というイメージがありました。しかし今回は「陳列館」の中を歩かせるところから作品づくりが始まっていたので、廊下や歩廊としても利用できましたし、使い勝手がいいなと感じました。
大岩:「足場」はとてもフィジカルな素材だなと感じました。実際に体を使いながら組み立てていけるのはとても楽しかったです。意外と扱いやすく、今後展示会をするときにも役立ちそうだと感じました。
秋山:このお話をいただくまで、足場をレンタルしている企業があることすら知りませんでした。使ってみた感想としては、足場は「抽象」と「具体」を行き来できるものであるということです。2階に展示した「箱」は、外から見るととても抽象的ですが、内部に入ると構造が剥き出しになっていてとても具体的です。そういった表現の幅が広がったのも、とても貴重な機会だと思いました。
Q.今回の制作の中でこだわった点や、大変だったことなどをお聞かせください。
三輪:制作に入る前に3Dモデリングで設計をするのですが、図面ではちょうどいいと思っても現場に持ち込むと若干の調整が必要な部分がありました。足場は規格が決められているので、そういった調整には不向きかと思っていましたが、逆に決められているからこそ現場での変更が容易でした。
佐野:外に壁を作る際に、足場に登って作業したことが大変でした。しかし足場は強度もあり、登ったり降りたりするのが簡単だったので、高所での作業も安心して行うことができました。
実際に、設計から施工までを通して行ったのが初めてでしたので、イメージしたものが自分の手で作り出せたことにとても感動しました。
Q.今後の制作に活かしたいことや、学びになったことを教えてください。
三輪:美術展などを行うことが多いのですが、ほとんどが一度きりで、期間が終わると撤収しなければなりません。 そういうときでも足場を使うことで現状復帰もしやすく、また組み立ても簡単に行うことができるので、展示の幅が広がると思いました。サステナブルが叫ばれているなかで、建築や美術というジャンルでもまだまだやれることはあるのだと感じさせられました。
佐野:足場は土台としても、骨組みとしても、作品の一部としても使える柔軟な素材だということがわかりました。制作の幅を広げてくれる、大きな可能性を秘めた素材ですね。とても貴重な機会をいただけたと思います。
大岩:私は、なにもない空間から一時的に「鑑賞する空間」を生み出すことに興味があるのですが、それをまさに今回足場で実現できたと思います。今後、またテンポラリーな作品や仮設的な空間を作るときにはぜひ検討したいです。
秋山:建築作品の中にも足場を活かしたものがあるのですが、実際に自分で触れてみたのは初めてでした。足場を組み立てるだけで簡単に大きな空間としてつくることができるのだという、面白みを感じることができました。
イメージを具体化することの大切さを学んでほしい
Q.今回、ASNOVAが協賛することになったきっかけをお聞かせください。
青木:私たちは2020年度から3回にわたって「テンポラリーなリノベーションとしての展覧会」というテーマで展示を行ってきました。
今回は「番外編」として私のディレクションのもと、修士1年生のみなさんや建築家、デザイナーの方々とともにアイデアを練り上げていき、建築科教育助手・甲斐貴大さんの監修のもと設営を行いました。
制作にあたってですが、以前から足場という素材で展示物を作る時の骨組みにしたいという構想はありました。レンタルできる業者を探していたところ、以前ASNOVAと取引のあった企業で仕事をしていたことがあるという学生がいたため、彼の紹介でASNOVAとのやりとりが始まりました。
Q.制作中の学生の様子はいかがでしたか?
青木:初めて触れる足場に最初は戸惑いも見せていましたが、みんな思っていたより早く使いこなせていましたね。事前に用意していた図面と実際の現場とで違う部分もあったようですが、その場で調整したり、材料を新たに発注したりと、フレキシブルに対応していたのが印象的でした。それもまた、足場そのものが柔軟な素材であるからこそでしょうね。
今の若い人たちは、パソコンやソフトの操作に慣れ親しんでいるので、画面の中で簡単にイメージを作ることができてしまいます。想像力を働かせる側面ではいい意味もあるのですが、それは言い方を変えると「妄想」でしかない。モノが簡単にできてしまうという錯覚を持ってしまいます。それは、実はモノづくりにおいてとても危ういことです。実際にこれを作るときにはどんなふうに作り始めるのか、どんな難しさが想定されるか。持ってみた感覚はどうか、ちゃんと握ることができるのか。そういったことを、図面を飛び出して現実に体験させてあげられたことは、とても価値のあることだったと思います。
Q.今回の取り組みを通じて青木教授が感じた「足場の可能性」をお聞かせください。
青木:足場は、サイズや規格が決まっているので、頭の中で出来上がりの構造を考えやすいなと感じました。また、簡単に組み立てられるのに頑丈で、とても安心できる素材なので、教育の現場との親和性が高いと感じました。学生たちにも今回の展示での経験を、今後の制作活動に活かしてほしいと思います。