SOCIETY

Text & Photo:杉田 真理子

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PROIFILE

杉田 真理子
デンマークオーフス大学で都市社会学専攻、その後ブリュッセル自由大学大学院にて、Urban Studies修士号取得。株式会社ロフトワークで空間デザイン・まちづくり系プロジェクトのプロデュースとマーケティングを経験したのち、2018年5月から北米へ拠点を移動し、フリーへ。都市に関する取材執筆、調査、翻訳、企画、メディア運用など、編集を軸にした活動を行う。
矢野 直子
1993年、株式会社良品計画入社。店舗スタッフを経て本社生活雑貨部で勤務。1999年に一度退社、夫の赴任に同行しスウェーデンで3年過ごす間、MUJI Europe Holdings(欧州統括会社)でミラノ・サローネの展示や欧州での商品開発に携わる。帰国後、株式会社三越伊勢丹研究所(旧伊勢丹研究所)勤務を経て、2013年、生活雑貨部企画デザイン担当部長(現任)として良品計画へ再入社、GACHAプロジェクトのリーダーとしてコンセプト構築を担う。
斎藤 勇一
2018年より株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部に所属。当部にて地域の様々な課題解決に取り組み、新たな生活価値を創出することを推進。GACHAプロジェクトでは、グランドデザインの策定とロードマップの立案を行うとともに、Sensible4とフィンランドでの実証試験の対応を行う。現在ソーシャルグッド事業部部付課長を務める。
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GACHAが提案する、モビリティの未来

今まで私たちは、モビリティを、A地点からB地点への移動として捉えてきた。しかし、これからのモビリティは、単なる移動だけでなく、コミュニケーションを創発し、コミュニティのためのハブとなり、生活の小さな不便を補足するものになるのかもしれない。自動運転のシャトルバス「GACHA(ガチャ)」は、そんなモビリティの未来を感じさせてくれる。

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杉田 真理子
デンマークオーフス大学で都市社会学専攻、その後ブリュッセル自由大学大学院にて、Urban Studies修士号取得。株式会社ロフトワークで空間デザイン・まちづくり系プロジェクトのプロデュースとマーケティングを経験したのち、2018年5月から北米へ拠点を移動し、フリーへ。都市に関する取材執筆、調査、翻訳、企画、メディア運用など、編集を軸にした活動を行う。
矢野 直子
1993年、株式会社良品計画入社。店舗スタッフを経て本社生活雑貨部で勤務。1999年に一度退社、夫の赴任に同行しスウェーデンで3年過ごす間、MUJI Europe Holdings(欧州統括会社)でミラノ・サローネの展示や欧州での商品開発に携わる。帰国後、株式会社三越伊勢丹研究所(旧伊勢丹研究所)勤務を経て、2013年、生活雑貨部企画デザイン担当部長(現任)として良品計画へ再入社、GACHAプロジェクトのリーダーとしてコンセプト構築を担う。
斎藤 勇一
2018年より株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部に所属。当部にて地域の様々な課題解決に取り組み、新たな生活価値を創出することを推進。GACHAプロジェクトでは、グランドデザインの策定とロードマップの立案を行うとともに、Sensible4とフィンランドでの実証試験の対応を行う。現在ソーシャルグッド事業部部付課長を務める。

めまぐるしく変わる天候に、 適応する移動手段を求めて

フィンランド・ヘルシンキ都市圏を構成するヴァンター市。歴史的な街並みが残るヘルシンキの市街地から、電車で30分ほどの距離にある。人口200,000人とコンパクトで、ここ10年ほどで大きく開発が進み、新しい市街地が増えた。このヴァンター市で、自動運転のシャトルバス「GACHA(ガチャ)」に試乗できるという。さっそく真冬のフィンランドに飛んだ。
 
取材日は、灰色の雨空。視界に入る全てがどんよりと鈍い灰色に映る、北欧の冬らしい天気だ。駅に立っていると、つるんと可愛いらしいフォルムのコンパクトな乗り物が、通常の市バスに混じってロータリーに滑り込んできた。大学発のスタートアップであり、フィンランドのロボティクス会社「Sensible 4(センシブル 4)」が開発し、日本の無印良品がデザインした、噂のGACHAだ。
 
自動で扉が開いて乗り込むと、乗り合わせていたセンシブル 4のメンバー、ティームとエルトが迎えてくれた。傘を折り畳みながら「今日も良い天気ですね」とジョークをいうと、彼らは苦笑しながらこう答えた。「フィンランドは、1年中こんな感じで、天気がころころ変わるんです。」
試運転に伴い、機動確認のために乗車するセンシブル 4のメンバー。エルトが見つめる後部座席のモニターには、GACHAが走る周辺環境の詳細データが映し出されている。
プロジェクトのきっかけになったのは、フィンランドのこの悪天候だった。地方都市や郊外などは特に、都心部よりも公共交通機関が発展していない。お年寄りや車を持たない住民にとって、悪天候は致命的となり、格差を生む。
 
「既にインフラの整っている都心部よりも、公共交通機関の選択肢が少ない街に、新しいモビリティを提供したい。そんな思いで、GACHAを作りました。”移動”というものに、新しい可能性を生み出したいと思ったんです」とティームは語る。
悪天候でも問題なく走行するGACHA。定期的な空気の入れ替えも自動で行われ、快適な車内だ。
ガチャガチャが名前の由来だというGACHA。無印良品がパートナーとして参加し、デザインを担当した。名前の由来の通り、つるんと可愛らしく、思わずワクワクしてしまうフォルムが魅力的だ。一見コンパクトに見えるGACHAだが、円形に顔を見合わせて座るタイプのレイアウトで、実は16人も収容可能。完全電子式で、フル充電してから約7時間、100kmを走ることができるという。
 
「テックすぎる感じがなくて、フレンドリーな見た目が可愛いなと思います。子供にも大人気です」試乗中、乳母車をひいて乗り込んできた女性が興奮気味に答えてくれた。仕事の昼休みを利用して乗ってみた、と話す男性2人は、「外からみるとコンパクトだと思っていたけど、乗ってみると想像以上に広々としていますね」と感想を話す。自動運転に乗車するのは初めてだったが、想定外の心地良さに満足したようだ。
 
車内から窓の外を眺めていると、GACHAが横を通り過ぎるたび、興味津々の通行人の顔が見える。写真を撮ったり、立ち止まって、笑顔で手を振ってくれる人もいる。

テックすぎる感じがなくて、フレンドリーな見た目が可愛いなと思います。子供にも大人気です。

乳母車を引いていた女性

モビリティ、公共性、 まちづくりへ。

瞬間的に立ち上がる、 まるでサウナのような空間

シンメトリーで、向かい合わせに座る座席のレイアウトも粋だ。小さな車内に向かい合って座ることで、知らない人同士でも、自然と会話が生まれる。
 
「フィンランドはやはり寒いので、GACHAに乗り込むと、思わずほっとします。暖をとる場所になったり、コミュニケーションが双発される場になったりと、なんだか、『サウナみたいな空間だね』と話しているんです」
 
プロジェクトを担当した、無印良品・ソーシャルグッド事業部の斎藤さんは、こう説明する。確かに、灰色にそめられた雨天のヴァンター市で乗ったGACHAは、理由もなくずっと乗っていたいくらい、心地良かった。一般乗車客も、窓の外を眺めたり、隣の人とおしゃべりしたりなど、各々の過ごし方で、ゆったりとした時間が過ぎる。
「個人用ではなく、公共的なバス、ということが大切です。GACHAのようなモビリティがあることで、人々が孤立せず、コミュニケーションが自然と誘発されるようなまちづくりに繋がればと思っています」と、同じく無印良品・生活雑貨部の矢野さん。「GACHAを通して、これからのモビリティと公共性、そして、そこから、まちづくりに繋がるような取り組みをしていきたい」と語る矢野さんの目は優しい。
過疎化の進む田舎や地方都市、車がほぼ唯一の移動手段になりがちな郊外でも、GACHAが走ることで、温かいコミュニケーションや対話が生まれるようになるかもしれない。小さな密閉空間を複数人でシェアするサウナが、公共空間としての役割を果たしているように、今後、GACHAを取り巻くコミュニティが生まれると良いなと思う。

固定資産としてではなく、 ポップアップ的に役割を変える

またGACHAでは、店舗やライブラリーとしての機能を、将来的に車内に搭載することを予定している。A地点からB地点への移動のためモビリティではなく、乗車中に商品を購入できたり、本を読んだりと、地域のニーズに合わせてさまざまな使われ方ができる。
「24時間ずっと絶え間なく人が乗るわけではないので、例えば朝夕のラッシュアワー以外は物流に活用したり、充電時間中はポップアップのお店として使用されたりと、都会ほどインフラのない田舎や地方都市の役に立つような使われ方ができたらと思います」と斎藤さん。今後はフィンランドだけでなく、他の国や都市でも、その地域の特性や天候、ニーズにに合わせて実証したいと意気込みを話す。
 
固定資産として場所を構えると、腰が重くなってしまう。変化に強い可動産だからこそ、仮設的で、ポップアップ式の、柔軟に姿を変えるモビリティが、これからの時代に必要なのではないか。日本から遠く離れたフィンランドの冬で1人、そんなことを考えた。

GACHAのようなモビリティがあることで、人々が孤立せず、コミュニケーションが自然と誘発されるようなまちづくりに繋がればと思っています。

矢野

『POP UP SOCIETY』とは 『POP UP SOCIETY』は、一般の方に業界への興味を持ってもらい、中長期的に建設仮設業界の若手人材不足に貢献することを目指し、ASNOVAが2020年3月から2022年3月まで運営してきた不定期発行のマガジンです。 仮設(カセツ)という切り口で、国内外のユニークで実験的な取組みを、人物・企業へのインタビュー、体験レポートなどを通じて紹介します。

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